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執筆者の写真伏見いきいき市民活動センター

【UTTOCOな人】中田絢子さん_vol.32 2019


 藤森に写真館があることをみなさんはご存知ですか。写真館の名前は「伏見の写真館これから」。伏見のまちの記録や家族の記録を丁寧に大切に撮られています。今回は、「伏見の写真館これから」館主の中田絢子さんにお話を伺ってきました。

写真館への想いと現実

Q:まちのなかにも数は少ないですが、写真館は存在しますよね。どうしてご自身で写真館をはじめられたのでしょうか。

 私の地元は高知県で、高知にいるときから写真館のカメラマンとして働いていました。その後、福岡に住み5年前に京都に引っ越してきました。福岡のときも写真館で働いていましたし、京都に来てからは、大阪の写真スタジオで週3〜4回程度働いています。ずっと写真館で働いていたため、写真館には興味がありました。

 京都に引っ越してきた最初の年に大手筋商店街のわきに野木写真場というまちの写真館があるのをみつけました。「このまちにも、まちの写真館があるんだ。」としかそのときは思っていませんでした。それから2年後、結婚記念日の写真を撮ろうとなんとなく野木写真場に行ってみると廃業されていました。私も写真館で仕事をしており、潰れていく写真館が多いことは知っていましたが実際目の当たりにするとショックでした。

 また、同時期に伏見在住の友人と話していると近くに写真をプリントするお店がなく、困っているということを聞きました。プリントするところもなく、写真を撮ってもらえるところもない。このまちに住んでいる人たちは、まちや家族の記録が残っていかないのではないかと思いました。

 高知で働いていた写真館の社長が「まちの写真館は、”家族を記録する”という仕事と同時に”まちの歴史を記録する”という仕事もあるんだよ」と話しておられました。その社長の言葉をもとに考えると、賑わっている伏見でまちの歴史が残らないというのは重大なことなのではないかと感じました。

Q:ご自身の経験やお仕事のなかで写真館の現状について知り、そして目の当たりされたことで衝撃を受けたということですよね。気になっていた写真館が閉館されたということで、その後はどうされたのでしょうか。

 その後、野木写真場を私が継ぐことができないかと思い、「継がせてもらえませんか。」というお手紙を書き、勢い余って投函しに行こうとしました。しかし、野木さんからすると見ず知らずの人から「継がせてください」という手紙が届くということです。野木さんの立場になって考えると怖いですよね。笑 

 何か方法はないかと考え、働いている大阪の写真スタジオが野木さんと繋がっていないかと思い、営業の方に尋ねました。野木さんのところに取引の営業に行ったことがあるとのことで、営業の方に写真館を継ぎたいという話を託しました。結論としては、継ぐことはできませんでした。継ぐということでなくても、場所を借りて、私が運営するということも含めて考えられないということでした。

 写真館を継ぐことができないなら、「自分でやるしかない」。店舗を借りることも考えましたが、写真館がなくなっている状況や売り上げも期待できないため現実的ではないと判断しました。写真館をやりたいという想いが心にはありましたが、なかなか進みませんでした。

 たまたま別件で家を購入しようという話をしており、建築士さんに設計をお願いしたとき「いつか自分の家で写真館ができたらいいな。」と言ったことを覚えてくださっていて「写真館はどれくらいのスペースがあればできるんですか?」と聞いてくださいました。「そんな広大なスペースはいらないです。」と答えると設計図に玄関を写真館として使えるようにつくってくださっていました。家でできることに驚き、とりあえずできる範囲でスタートすることができたんです。

(中田さんの想いと建築士さんのアイディアからうまれた写真館)

自由に好きに撮影する

Q:写真を撮ることをお仕事とされている中田さんですが、昔から美術や芸術、写真などは身近な存在だったのでしょうか。

 小・中学生のときに授業で描いた絵や書道の公募展があり、入選すると県の美術館に展示されました。私は、何度か入選したことがあり、美術館に絵を観に行くということは日常的なことでした。そのなかで、絵を描くことが楽しいと思い、中学・高校と美術部に入り、そのながれで美術系の大学に行くことを考えていました。

 高校3年生の時、まちのギャラリーを借りて、美術部のメンバーで卒業記念グループ展を企画しましたが、思ったほどメンバーが集まりませんでした。学生からするとまちのギャラリーは少し高く、ある程度の人数が集まらないと一人あたりの金額が高くなってしまいます。「結構、金額きついなー。」という話になっていたとき、美術部と写真部を掛け持ちしている友人が「よかったら写真部も声かけてみる?」ということを言ってくれました。その言葉に甘えて、写真部にも声をかけてもらい、7人で開催できることになりました。

 そのグループ展で初めて作品としての写真にふれて、写真はみんながピースしているものやふざけているものではない写真があるということがとても衝撃でした。美術部でしたが、絵が好きなだけで上手な方ではなく、人と比べられない絵にするために抽象画を描いていました。少し逃げていたのかもしれません。写真を観たときに「写真なら、絵が上手じゃない私でもできるかもしれない」と思い、そこから写真を撮るようになりました。

 当時は、高3なので大学も美術系に進むということは決めていました。写真学部はなかったため写真だけを学ぶということはできませんでしたが、写真を学ぶことのできる授業も取っていました。

Q:中田さんにとって写真の魅力はどういったところにあると思いますか。

 写真は、自分でない誰かのために残している部分があると思います。もちろん、今の自分のために必要な証明写真やプロフィール写真もあります。しかし、今の自分に必要でない写真を残したとしても5年後、10年後に写真をみた時、将来の自分を後押ししてくれる、肯定してくれる材料になるのかなと思っています。

 例えば、家族写真も撮影当時いい写真と思うことも大事ですが、将来その写真をみた時に自分にとって何か価値があるものになっているのではないかと思います。自分の幼い頃の姿より、その当時、親がどのような様子だったのか、その時代に周りにあったものが何だったのかというところに目を向けるおもしろさもあります。タイムカプセルのように「未来の自分へ」という、時代を越えて届けられる何かが写真にはあると私は思っています。

Q:昔と比べると今は、とても人と写真の距離が近いように感じます。スマホで簡単に撮影できますし、カメラもコンパクトになって持ち運びやすいです。また、写真を投稿するSNSも人気で写真を撮ることがとても身近なものになっていますよね。

 多くの人が写真に映ることや写真を撮ることに抵抗がなくなってきて、カメラを向けたときに身構える人も少なくなっているように感じています。それは嬉しいことですし、写真が楽しみの1つに根付いているのはいいですよね。今更、魂とられると言って拒否する人の方が少ないですよね。笑 

 笑っていなくてもいい、誰が撮ってもいい、どんな写真でもいいと写真の許容範囲が広がっているのはとてもいいことです。その一方で、SNSではこの路線でないと「いいね!」がもらえないということもあります。「いいね!」を目指すための写真が正しいという方向になってしまうのはもったいなく感じています。

 私は、写真教室やワークショップもしており、そのなかで正解はないということや自由に撮影していいということを伝えるために開催しています。もちろんSNSで人気がでる方向を目指すこともいいですが、自分の写真がそうでないからとへこむ必要はありません。好きなものを撮り、自分の写真を好きになるほうが楽しいですよね。

(写真ワークショップを実施されている様子)

写真館はみんなが集える場所

Q:お仕事をされているなかで、大切にされていることはありますか。

 写真を撮ることは、生きていくうえで必須なことではありませんよね。写真館としての撮影、作品としての撮影も含めて写真を撮るという行為自体は、生きていくのに必須なことではないけれどできているのは、生きていくうえでのベースがあるからこそできることです。必須ではないことができている環境がとてもありがたいと思っています。

 そもそも写真は光で記録するものなので、光がないと写りません。何かに与えてもらっているおかげで撮影できているということです。撮影できる環境や撮影させてくれる人がいるからできていることなので周りへの感謝の気持ちが大きいです。それは、忘れないようにしたいですし、大切にしていますかね。

Q:今後やっていきたいこと、挑戦したいことはありますか。

 今のスペースでは、できることも限られているため、将来的にはもう少し広いスペースでやりたいです。そこで、コワーキングでもカフェでもいいですが、人が集える場であり、写真館でもある場所をつくりたいです。写真館に予約が入ると、「今日は写真館だから、カフェはお休み!」というように緩やかなかんじでできるといいですね。まちの人とつながっていけるようなところがあれば面白いのかなと思っています。

 写真館で撮る写真は、みんなで集合して、きちっと真面目に撮るのが一般的な写真館のイメージですよね。しかし今は、もう少しラフな雰囲気で撮影する写真館が増えてきています。今までの写真館のイメージではなく、写真館という名前ではあるけれど、写真以外のこともやっている、写真の撮り方も自由と形を変えていければ、写真館の数が減ることはないと思っています。

伏見の写真館これから

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