中書島から歩いて20分ほどのところに絵本屋さんができたのを、みなさんはご存知ですか。お店の名前は、「絵本のこたち」。今回は、店主の熊谷聡子さんにお話を伺ってきました。
気軽に立ち寄れる絵本屋さん
絵本屋さんを始めようと思われたのは、3〜4年前くらいとのこと。店舗として、利用している建物は、築70年以上もの歴史のある建物で、雨漏りがひどかったこともあり、改修するか、取り壊すかの選択を迫られていたそうです。
「私たちが生まれるずっと前、70年もの長い間建っていたので、取り壊すのは忍びないと思っていました。近所に公園ができたこともあり、公園の行き帰りに立ち寄れる場所ができたらいいなと思っており、そのような場所に絵本があるとさらにいいかなと思ったのがきっかけです。」
歴史ある建物ということで、建物の改修も大変だったそうです。当初は自身で塗ろうと考えた壁も、想像以上の傷みの激しさに大工さんに任せるしかない状態でした。なるべく使える建物の部分は残してもらうように、大工さんにお願いしました。
(この壁は、改修後もそのまま。70年以上もの歴史を受け継いでいます。)
「元の建物からは見違えるような姿になりましたが、すべてを変えるのではなく、70年前からの連続性を大事にしたく、テレビや本棚、土の壁も改装前からずっとここにあるものです。」
また、大人がきても居心地がいように、内装も子どもっぽくなりすぎないようにしています。
お客さんとして来られる方は、SNSを見て遠方から来られる方や近所の公園を行き来する親子連れが来られそうです。オープンしたばかりのため、地域への認知もこれからで、大人の来店がまだ多いですが、お客さんとの距離が近いことは、このお店の特徴と言っておられました。
「お客さんとお話しすることも多く、出産祝いやお孫さんへのプレゼントで来られる方が多いとわかりました。お話しすることで、目的にあった絵本を勧めることができるので、お客さんと近い距離なのはいいですね。」
みんなが読める絵本
本棚の下段は小さなお子さんが読む絵本を、上段は中高生や大人も読める絵本を、それぞれの年代に合わせた絵本が目線の高さにおいてあります。
(本棚には、さまざまな種類の、さまざまな国の絵本が並べられています。)
熊谷さんが「絵本屋さんを始める」と高校生になったお子さん達に伝えた際、「10年前くらいにやってよ。もう大人になったし絵本は読まないよ。」と言われたそうです。しかし、「絵本は中高生や大人でも楽しく読める」と熊谷さんは考えています。
「例えば、この『300年前から伝わるとびきりおいしいデザート』という絵本は、300年前、200年前、100年前、現代と4つの時代で「ブラックベリー・フール」というお菓子を食べている絵本です。
小さい子は、『昔はこんな風にして、作っていたんやな。』と思うだけでも十分楽しめますが、中高生になると、絵をみて時代背景に気がつくようになります。文章で書くと小うるさい感じますが、絵本は絵から時代の流れなどが読み取れます。
絵本は、文章が少ないため、想像の余地がたくさんあります。それは、経験や知識を積んでいくと、より膨らんでいくものです。中高生時代の感受性の豊かな時に、絵本に親しんでほしいと思っています。」
絵本は、子どもの頃と大人になって読んだときでは違う発見があり、親から子へ同じ絵本が受け継がれることも魅力の 1つです。
また、日本に多くある、翻訳絵本にも魅力があると熊谷さんは言います。
「翻訳絵本は日本でもとても多く出版されています。他国の全く知らない人が、異なる言語で同じ絵本を『綺麗だな』と思う。そんな共通の体験が将来の相互理解にも通じるのではないかなと思っています。素敵な翻訳絵本がたくさんあるので、ぜひ読んでほしいです。」
入口の近くに置いている『タラブックス』は、インドの出版社がハンドメイドでつくる絵本です。絵本の紙そのものも手漉きで作られ、シルクスクリーンで1枚ずつ印刷しているため、一冊一冊発色が違い、独特な匂いもします。
「タラブックスのなかに『夜の木』という絵本があります。日本でも『モチモチの木』など木をモチーフにした絵本があります。木に『畏怖の念』を感じるところで共通の感覚があるなと感じました。タラブックスの本には、絵本の魅力や原点があると感じ、ずっと置いておきたいと思っています。」
昔から好きなもの
絵本を好きになったきっかけは、安野光雅さんという作家さんの『ふしぎなえ』という絵がとても綺麗な絵本です。
ご自分の進路を考えた際に、子どもの頃に絵本が好きだったことを思い出し、絵本作家になりたいと美大に入学されました。在学していた美大の版画専攻がさまざまなことができるため版画専攻へ。しかし「自分は作る側ではない」と感じ、就職されました。
「就職はデザイン事務所で少しの間働き、その後、出版社に勤めました。当時は出版業界の中では、本屋さんが1番厳しく、大変だと思っていました。今は何とかやっています。笑 結局、本が好きだったんですよね。一周して戻って来たような感じです。」
本との距離が近い暮らしをしてき熊谷さんですが、子育てをしている時にあることに気がつきます。
図書館の読み聞かせイベントに道のりで子どもが寝てしまい、読み聞かせが終わってもずっと子どもが寝ているという事もあったそうです。もっと身近な距離に本に触れられる場所があればと思っておられました。
「子どもが生まれてからは、「本屋さんが少ないことが不便」とより思うようになりました。車での移動は便利ですが、歩いて移動する範囲で、子どもを連れて行く場所があまりありません。結局、子どもが何かするとなると、親がついて行かないとどこにもいけません。気が向いた時に、ふらっと寄る場所があるといいなと思いました。」
もともと絵本が好きだったということに加え、ご自身が暮らすなかで感じたことが絵本屋さんを始めるベースにもなっています。
(お店のなかにある、ギャラリースペース。
今後は、原画展やワークショップの開催も予定されているとのこと。)
熊谷さんは絵本屋さんとしてだけでなく、図書ボランティアとしても本と関わっておられます。図書ボランティアでは学校に赴き、読み聞かせ等をします。2017年は、朝読書の時間に低学年に読み聞かせを月1回実施されました。また、月に1回、土曜日にクラフト教室や切り絵などのイベントを行い図書館を開放する活動も行なっておられます。これは、7年間も続けておられるそうです。
「一括りに本屋さんと言っても、大型のチェーン店もあれば、個人の本屋さんもあります。洋服の場合は、とても細かくジャンル分けされていますよね。カジュアルやフォーマル、ジーンズショップやTシャツ屋さん、ボーイッシュやガーリーなど。本屋さんも、子ども向け絵本が多い本屋さん、参考書が多い本屋さんなど、特徴のある小さい本屋さんがいっぱいできるといいなと思っています。」
絵本のこたち
営業時間:11時〜18時
定休日:水曜日、木曜日
住所:京都市伏見区横大路下三栖辻堂町76
TEL/FAX 075-202-2698